
前回の記事では経産省(IPA)が公表した「デジタルスキル標準」について解説いたしました。
本記事では「デジタルスキル標準」を構成する「DXリテラシー標準」と「DXスキル標準」のうち、ビジネスパーソン全体が身に着けるべき知識と定義されている「DXリテラシー標準」について解説いたします。
前回記事↓↓↓
目次
DXリテラシー標準とは何か?前回の記事のおさらい
2022年12月21日、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)は、企業や組織のDXを推進する人材を育成するための指針である「デジタルスキル標準(DSS)」を公表しました。
デジタルスキル標準は以下の2種類で構成されています。
■DXリテラシー標準・・・ビジネスパーソン全体が身につけるべき能力・スキルの標準
■DX推進スキル標準・・・DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準
本記事では「DXリテラシー標準」について解説していきます。

DXリテラシー標準の必要性
デジタル技術の進化により、様々なデータや技術を通じて、ビジネスパーソンの活動の可能性が広がり、私たちを取り巻く社会は変化のスピードが速くなっています。
例えばSDGsやESG投資(環境・社会・企業統治における課題解決への投資)など社会課題への関心の高まりといった社会変化、品質がいいだけでは満足されなくなってきている顧客価値の変化、デジタルの活用による異業種の参入や国境を越えたビジネスなどの競争環境の変化などが挙げられます。
このように社会構造に大きな変革が起きている中で、私たちビジネスパーソン一人ひとりが、よりよい職業生活を送るためには、従来の「社会人の常識」とは異なる知識やスキルの学びが必要です。また、その学びを促進するためにも指針となるものが必要であり、それが「DXリテラシー標準」なのです。

標準策定のねらい
前章でも解説いたしましたが、社会全体のデジタル化が加速する中で人生100年時代を生き抜くためには、組織・年代・職種を問わず、ビジネスパーソン一人ひとりがDXに関するリテラシーを身に着け、学び続けることが重要です。
そして一人ひとりがDXを自分事として捉え、変革に向けて行動できるようになることがDXリテラシー標準策定のねらいです。

DXリテラシー標準に沿った学びによる効果(個人)
DXリテラシー標準に沿ってDXの必要性、データ、デジタル技術について知ることにより、最新の技術やDXへのアンテナを広げることができるようになります。
アンテナを広げることによりDXリテラシー標準では扱っていない内容にも興味が沸くようになり、自ら調べてみたり、使ってみたり、活用してみることでさらに知識を広げていくことができるようになります。

DXリテラシー標準に沿った学びによる効果(企業・組織)
DXに関するリテラシーを身に着け、DXへのアンテナを広げた人材が増えることで、組織全体のDXへの取組みは加速します。
具体的には下記の①~③のような効果があります。
①経営層・・・経営層がDXリテラシーを身に着けることにより、自社のDXの方向性を思案し社員に示すことができるようになる
②DXを推進する人材との協働・・・自社の事業内容や業務に詳しい人材がDXリテラシーを身に着けることにより、DXを推進する人材との協働が進み、企業としてDXが進みやすくなる
③組織全体でのDXへの取組み・・・様々な組織・年代・階層・職種の人材がDXに関するリテラシーを身につけることで、DXに伴って組織内で起きる変化への受容性が高まる

DXリテラシー標準の構成
DXリテラシーの全体像
DXリテラシー標準の全体像は下図のようになっています。
DXリテラシー標準の基礎となる「マインド・スタンス」は、社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動を定義しています。
「DXの背景」ではDXの重要性を理解し、「DXで活用されるデータ・技術」でビジネスで活用されるデータやデジタル技術について学び、「データ・技術の利活用」で実際にビジネスで活用する方法や事例、留意点について学びます。
これらを網羅して学習することにより、DXリテラシー標準策定のねらいである「ビジネスパーソン一人ひとりがDXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになる」ことを目指します。

DXリテラシー標準の学習項目
DXリテラシーの各学習項目について詳しく解説いたします。
マインド・スタンス
マインド・スタンスの学習のゴールは「社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要なマインド・スタンスを知り、自身の行動を振り返ることができる」としています。
学習項目としては、変化への適応/コラボレーション/顧客・ユーザーへの共感/常識にとらわれない発想/反復的なアプローチ/柔軟な意思決定/事実に基づく判断/で構成されています。

出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「デジタルスキル標準ver.1.0」 2022-12 P18 https://www.ipa.go.jp/files/000106872.pdf
Why DXの背景
Why DXの学習ゴールは「人々が重視する価値や社会・経済の環境がどのように変化しているか知っており、DXの重要性を理解している」としています。
学習項目としては、社会の変化/顧客価値の変化/競争環境の変化/で構成されています。

What DXで活用されるデータ・技術
What DXの学習ゴールは「DX推進の手段としてのデータやデジタル技術に関する最新の情報を知ったうえで、その発展の背景への知識を深めることができる」としています。
学習項目としては、「データ」と「デジタル技術」に分かれており、「データ」の学習項目としては、社会におけるデータ/データを読む・説明する/データを扱う/データによって判断する/「デジタル技術」の学習項目としてはAI/クラウド/ハードウェア・ソフトウェア/ネットワーク/で構成されています。


Howデータ・技術の利活用
Howデータ・技術の利活用の学習ゴールは「データ・デジタル技術の活用事例を理解し、その実現のための基本的なツールの利用方法を身につけたうえで、留意点などを踏まえて実際に業務で利用できる」としています。
学習項目としてはデータ・デジタル技術の活用事例/ツール利用/セキュリティ/モラル/コンプライアンス/で構成されています。

補足―DXリテラシー標準のWhatとHowの違い
DXリテラシー標準においてのWhatとHowの違いについて、少々わかりづらいので補足で説明します。
WhatとHowは下記のように区分しています。
■What・・・仕事で活用するか否かにかかわらず知識として持っておきたい項目
■How・・・仕事で利用するための知識・スキルであり、実際の業務の作業や判断において利用して欲しい項目
知識・スキルを活用し、実際に業務で手を動かすことができるレベルがHowということになります。

DXリテラシー標準の活用方法
組織・企業、個人について、それぞれの立場に合わせたDXリテラシーの標準の活用方法を以下に示します。
■組織・企業・・・社員にDXリテラシーを身に着けさせる上で、育成体系の指針として活用する
■個人・・・DXに関する学習コンテンツが多く存在する中で、自ら学習内容を選択し、体系的に学びを設計するための指針として活用する

まとめ
経産省(IPA)が公表した「デジタルスキル標準」を構成する2つの標準のうち、今回はビジネスパーソン全てが身に着けるべき「DXリテラシー標準」について解説いたしました。
これまでは経営層も社員も、DXとは「DXの知見を持った一部の人材が取り組むものである」といった認識を持った方が多かったのではないでしょうか。
しかし、それが日本企業のDXへの取組みを遅らせていた大きな原因でもあるのです。
DXリテラシー標準が策定され、学ぶべき指針が明確になったことにより、ビジネスパーソン一人ひとりがDXに関するリテラシーを身につけ、DXを自分事として捉え、変革に向けて行動できるようになることが期待されます。
ポイントは「全社的にDXリテラシー標準の知識を身につける」ことです。
全社的に行うことでDXへの気運も一気に高まりますし、部署間の連携もスムーズになります。
合わせてDXを実際に推進していく人材が「DX推進スキル標準」の指針を基に知識、スキルを習得していくことも重要ですが、こちらはDXの推進度合いに応じて段階的に習得していくことが可能です。
まずは全社的にDXリテラシーを身に着けるところからDXの第1歩を踏み出してはいかがでしょうか。
製造業で10年ほど品質管理、品質保証を経験したのち、IT業界にキャリアチェンジ。
業務IT化や、IT人材育成についてなど、IT業界以外の方にもわかりやすい記事を書くことを心掛けています。