2022年12月21日、経済産業省とIPA(情報処理推進機構)がDXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準である「DX推進スキル標準」を発表したことはご存知でしょうか。
「DX推進スキル標準」はDX推進の取組みにおいて、どのような人材が必要なのか、身に着けるべきスキルはどのようなものかを定義したものになります。
この発表の背景には日本企業の深刻なDX推進人材不足があります。
DX推進人材不足に課題を感じていらっしゃる企業のご担当者様はぜひ当ブログをご参考に、DX推進人材の課題解決の糸口としていただければと思います。
当ブログでは「DX推進スキル標準」についてわかりやすく解説した記事をいくつか掲載していますが、今回はDX推進の取組みにおいてのサービスデザインの重要性と、DX推進スキル標準で定義された「デザイナー」について解説していきます。
DX推進スキル標準の概要はこちら
前回記事:DXを推進する主要な人材「ビジネスアーキテクト」とは?その役割と必要なスキルを解説
目次
サービスデザインとは何か
「サービスデザイン」とは何かご存知でしょうか。
「サービス」と「デザイン」を分ければよく聞きなれた言葉ではありますが、「サービスデザイン」というと、あまりイメージできないという方もいらっしゃるかもしれません。
サービスデザインとは、顧客にとって望ましい「体験」を提供するための仕組全体を設計し、実現するための組織や仕組みづくりを指します。
サービスデザインの重要性
サービスデザインの概念は1980年代から存在していましたが、近年、その重要性が再認識されています。
その背景には下記のようなことが挙げられます。
●市場ニーズの多様化、高度化
いま、市場には優れた製品・サービスがあふれ、人々の価値観の多様化や要求の高度化が一層進んでいます。
顧客が真に求める価値、あるいは顧客の期待を越える価値の創出が企業活動の課題となっています。
●デジタル経済の進展
AI・IoT などデジタル技術の革新による第四次産業革命の波やデジタル経済の進展が、既存産業に大きな影響を及ぼしつつある中で、常識にとらわれない新事業の創出が求められています。
●国際社会における変化
SDGsに象徴されるように、国際社会が持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進している中で、企業のあり方も問われ始めています。
このように市場や技術、社会が大きく変化していく中で「デザイン」に期待される役割も変化しています。
経済産業省の「デザイン政策ハンドブック2020」によると、デザインは単なる造形を美しいもの、使いやすいものにする役割から、今や「人を起点とする価値創造・問題解決の手段として捉えるべきもの」とされています。
具体的には下記のようなことです。
● 製品やサービスを利用する人々の体験全体を心地よいもの、魅力的なものにする
● ビジネスモデルや組織・コミュニティなどのエコシステムを望ましいもの、生き生きとしたものにする
サービスデザインのアプローチはビジネス分野だけでなく、公共サービスなどの行政の取り組みにおいても用いられています。
このようにデザインに期待される役割の変化を踏まえ、顧客・ユーザーの視点からビジネスの変革を実現する人材が必要であるとしてDX推進スキル標準でもサービスデザインを担う「デザイナー」が定義されました。
DX推進スキル標準における「デザイナー」の定義
DX推進スキル標準におけるデザイナーとは、「ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材」と定義されています。
ここで言う「デザイン」とは「サービスデザイン」を指します。
DX推進人材としてデザイナーに期待される役割
デザイナーに具体的に期待される役割やアクションは以下のとおりです。
①顧客・ユーザー視点でのアプローチを、取組みの関係者が常に意識できるように導く
製品・サービスの構想において顧客・ユーザー視点は見落とされがちです。
収益性やコスト削減などの企業視点だけになっていないか確認し、顧客・ユーザー視点の検討をファシリテートするなど、DXの取組みのあらゆる場面において顧客・ユーザー粗点が欠落しないよう、サポートすることが求められます。
②顧客・ユーザーにとってのユーザビリティが実現できているかを確認する
UI(ユーザーインターフェイス)という言葉を耳にされたことがあると思いますが、UIはユーザーとの間に現れるサービスやプロダクトの外観を表す言葉であり、ユーザーにとっての分かりやすさ、 見つけやすさ、使いやすさを考えることはサービスデザインにあたります。
③倫理的観点を踏まえた顧客・ユーザーとの接点のデザインを行う
顧客・ユーザーとの接点をデザインするにあたっては、顧客・ユーザーにとってその製品・サービスが分かりやすいか、見つけやすいか、好ましいかといった要素だけでなく、倫理的な妥当性も踏まえることが求められます。
デザインは人の行動原理や心理学を基にして行いますが、出来上がった製品・サービスに非倫理的な要素があった場合は差し戻すことが求められます。
④他の人材類型と連携してDXを進める
DX推進スキル標準ではデザイナーの他にも、全部で5つの人材類型が定義されていますが、どちらかがどちらかに指示をする、又は依頼するといった形ではなく、様々な場面で協働関係を構築しながらDXを進めます。
デザイナーのロール(担う責任・主な業務・スキル)
ロールとはDX推進スキル標準で定義された5つの人材類型の各役割を、業務の違いによってさらに区分したものであり、担う責任、主な業務、スキルが明確に記載されています。
デザイナーはDX推進のあらゆるプロセスにおいて活躍されることが想定されるため、大きく3つにプロセスを分け、それに沿ってロールを定義しました。
1 |
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サービスデザイナー |
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UX/UIデザイナー |
3 |
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グラフィックデザイナー |
これらのロールのうち、DXをこれから始める企業が特に優先的に揃えたほうが良いと思われるロールは、UX/UIデザイナーです。
UIについては先ほど解説いたしましたが、UX(ユーザーエクスペリエンス)はユーザーが商品やサービスを通じて得られる「楽しい」「嬉しい」「美しい」などの体験を指します。
他社製品より使いやすいなどの品質に関わるものもUXに含まれます。
UX(ユーザー体験)とUI(ユーザーとの接点)が一体となった優れた製品・サービスを提供することにより、企業価値が向上するため、UX/UIデザイナーはDX推進の取組みにおけるデザイナーのコアな業務であると考えられます。
規模の大きな企業において、全社的な改革を進める場合はサービスデザイナーが重宝される場合もありますが、ビジネスアーキテクトでも一定にカバーすることは可能であり、グラフィックデザイナーは専門性の高さから外注とする選択肢もあります。
各ロールで担う責任、主な業務・スキルマッピングは下図のようになっています。
サービスデザイナー
顧客・ユーザーの課題特定や、バリュープロポジションの定義、製品・サービスの方針(コンセプト)の策定を行う際に「顧客・ユーザー理解」や「価値発見・定義」のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められます。
また、「戦略・マネジメント・システム」や「ビジネスモデル・プロセス」関連のスキルについても、ビジネスアーキテクトと協働しながら実践できる程度の知識と実践力を幅広く持ち合わせていることが求められます。
UX/UIデザイナー
顧客・ユーザー体験の検討や、情報設計、機能や情報の配置、外観、動的要素のデザインを行う際に「顧客・ユーザー理解」や「価値発見・定義」「設計」のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められます。
また、「テクノロジー」関連のスキルや、顧客・ユーザーとの接点をデザインする際に必要な「プライバシー保護」のスキルについても、ソフトウェアエンジニアやサイバーセキュリティ等と協働しながら実践できる程度の知識を幅広く持ち合わせていることが求められます。
グラフィックデザイナー
デジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデジタル関連のデザインや、事業や製品・サービスを展開する中での各種コンテンツのデザイン全般を行う際に「その他デザイン技術」のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められます。
また、「マーケティング」や「ブランディング」スキルについても、マーケティングやブランディングの専門家と協働しながら実践できる程度の知識と実践力を持ち合わせていることが求められます。
まとめ
サービスデザインの重要性、DX推進スキル標準で定義された「デザイナー」の役割と必要なスキルについて解説しました。
私たちを取り巻く様々な環境の変化は日々のニュースなどでみなさんも感じていらっしゃることと思います。
流れの速い現代社会において、企業も変化と共に変革をし続けていくことが、市場競争に勝ち残る手段と言えるのではないでしょうか。
そうは言っても、何かしなければいけないと思いながら何をしてよいかわからないといった声もよく耳にします。
DX推進に携わる方がサービスデザインについて学ぶことにより、これまでとは視点が変わり、既存事業や既存業務の課題がクリアになるかもしれません。
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製造業で10年ほど品質管理、品質保証を経験したのち、IT業界にキャリアチェンジ。
業務IT化や、IT人材育成についてなど、IT業界以外の方にもわかりやすい記事を書くことを心掛けています。