2022年12月21日、経済産業省とIPA(情報処理推進機構)がDXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準であるDX推進スキル標準を発表しました。
DX推進スキル標準の概要はこちら↓↓↓
DX推進スキル標準策定の背景としては日本企業のDXの取り組みの遅れや、その大きな原因としてDX推進人材の不足が挙げられます。
DX推進スキル標準が示した5つの主要な役割の中でも筆頭に記載されており、特に注目すべき役割は「ビジネスアーキテクト」です。
本記事では「ビジネスアーキテクト」とはDX推進においてどのような役割なのか、ビジネスアーキテクトになるにはどのようなスキルを身に着けるべきなのかを解説していきます。
目次
ビジネスアーキテクトとは
ビジネスアーキテクトとは、DXの取組みの中で事業の新たな目的を設定し、その実現に責任を持つ人材です。
DXを推進する人材として、データやデジタル技術に関する専門的な知識・スキルを持つ人材を思い浮かべがちですが、データやデジタル技術の活用の先にある、ビジネスそのものの変革の実現をリードする人材が必要であると考え、本類型が定義されました。
そもそもアーキテクチャ(architecture)とは構成や構造などを表す言葉ですが、ITの分野ではITシステムを構成するための設計思想と構造のことを指します。
DXの取り組みで新たな目的を実現するためにはIT等による仕組みを設計する必要があります。
そして「ビジネスアーキテクト」の主な設計対象はビジネスモデルやビジネススタイルであり、この名称が充てられました。
ビジネスアーキテクトは日本ではまだ聞きなれない言葉かもしれませんが、DXが進んでいる米国では2022年の人気職業ランキングで、企業のシステムやビジネスモデルの全体を最適に設計する「エンタープライズアーキテクト(EA)」が首位に浮上しています。
デジタル技術が複雑化し、組織全体を俯瞰(ふかん)してまとめる指揮者のような人材に需要が集まっています。
2022年の米国人気職業ランキング | |||
順位 | 前年 | 職業 | 年収 |
1↑ | 4 | エンタープライズアーキテクト (企業全体のシステムとビジネスの設計) |
14万4997ドル |
2↑ | 圏外 | フルスタッグエンジニア (複数のプログラミング言語で開発統括) |
10万1794ドル |
3↓ | 2 | データサイエンティスト (データ分析) |
12万ドル (5.5%) |
4↑ | 5 | デブオプスエンジニア (システムの開発と運用) |
12万95ドル (9.2%) |
5↑ | 13 | ストラテジマネージャー (戦略立案) |
14万ドル (13.6%) |
(注)年収は基本給の中央値。前年比増加率 (出所)米グラスドアが求人や待遇など調査
出典:日経新聞 2022年12月21日「DXの人気職業に異変「企業の設計士」、米で初の首位」
ビジネスアーキテクトの定義
IPA公表のDX推進スキル標準では、ビジネスアーキテクトを「DXの取り組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築を リードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材」と定義しています。
ここでご注意いただきたいのは、先ほども述べましたようにビジネスアーキテクトは指揮者のような役割ではありますが、全社的な組織づくりや人材育成は指揮しません。
これはDX推進スキル標準で想定する人材のレベルとして、全社的な取り組みの責任を担うような経営層レベルを想定していないためです。
あくまでもデータやデジタル技術を活用した製品・サービス・業務を対象とした取組みになりますが、企業全体が持つ組織的な能力について経営層へ問題提起するスキルは必要になります。
ビジネスアーキテクトがDXで取り組むテーマ
ビジネスアーキテクトがDXで取り組むべきテーマは下記の3つです。
1.新規事業開発 | データやデジタル技術を活用した新規製品・サービスの市場への提供 |
2.既存事業の高度化 | データやデジタル技術の活用を通じた既存製品・サービスの価値向上 (多様な提供方法、既存製品の新市場開拓等) |
3.社内業務の高度化・効率化 | データやデジタル技術の活用を通じた社内業務の品質やコスト、スピードの向上 |
DXはデータやデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革を指していますが、DX推進をこれから始める企業にとってはイメージしづらいかもしれません。
そこで比較的イメージしやすいテーマとして、「既存事業の高度化」や「社内業務の高度化・効率化」についてもビジネスアーキテクトが取り組むテーマの中に含めることとなりました。
ビジネスアーキテクトに期待される役割
ビジネスアーキテクトに対して、具体的に期待される役割や求められるアクションは以下のとおりです。
①デジタルを活用したビジネスを設計し、一貫した取り組みの推進を通じて実現に責任を持つ
ビジネスアーキテクトには、DXの取り組みにおいて目的を設定し、それを実現するためのプロセスについて一貫性を持って推進し、目的の実現に責任を持つことが求められます。
また、ビジネスモデルやビジネスプロセス以外の技術的な設計においても、必要に応じて専門スキル・知識を持つ人材と協働することが求められます。
プロセスを一貫して推進し、目的を実現 |
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ビジネスモデルやビジネスプロセスの設計 → | 技術・ツールの選定、仮説検証の実施 → | 導入後の効果検証の実施 |
②関係者をコーディネートし、関係者間の協働関係の構築をリードする
ビジネスアーキテクトには、取り組みの目的を実現するために必要なリソースの確保、チームの組成、適材適所を意識した偏りのないタスクの割り振りや関係者間の合意形成の促進等が求められます。
またこれら関係者をコーディネートし、協働関係の構築をリードすることも求められます。
IPAが定義するDX推進人材には主に5つの人材類型がありますが、DX推進人材類型の連携において、どちらかがどちらかに指示や依頼をするといった形をとっていません。
様々な場面で二つ以上の人材類型が協働関係を構築しながらDXを推進していきます。
ビジネスアーキテクトのロール(担う責任・主な業務・スキル)
ロールとは5つの人材類型の各役割を、業務の違いによってさらに区分したものであり、担う責任、主な業務、スキルが明確に記載されています。
ビジネスアーキテクトはDXを一貫して推進し、目的の実現に責任を持つため、ロールはプロセスではなく3つのテーマ(①新規事業開発 ②既存事業の高度化 ③社内業務の高度化・効率化)ごとに定義されています。
各ロールで担う責任、主な業務・スキルマッピングは下図のようになっています。
新規事業開発
新事業開発は新たな製品・サービスの目的を定義し、目的を実現するためのビジネスモデルやビジネスプロセス設計を行う際に必要なため、「ビジネス変革」や「データ活用」関連のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められます。
また「テクノロジー」や「セキュリティ」関連のスキルについても、関係者をコーディネートするために一定の知識を習得していることが求められます。
既存事業の高度化
「新規事業」と「既存事業の高度化」に必要なスキル自体に差はないと考えられるため、新規事業開発と同様のスキルが必要とされています。
新規事業開発は、何もないところから実現したいことを定義する点では、既存事業の高度化よりも難易度が高いと思われがちですが、既存事業の高度化は、すでにある製品・サービスの要件との整合性担保や、ステークホルダーとの調整を行いながらスケールさせなければならない点において新規事業開発よりも難易度が高いと考えられます。
社内業務の高度化・効率化
取組みテーマの範囲が社内業務であることから、ビジネス変革やデータ・AIの戦略的活用において、新規事業開発や既存事業の高度化ほどの高い実践力は求められませんが、関係者のコーディネート(必要なリソースの確保、チームの組成、適材適所を意識した偏りのないタスクの割り振り)を行う際に「変革マネジメント」について高い実践力が必要です。
まとめ
DX推進スキル標準の中でも特に注目すべき「ビジネスアーキテクト」について、その役割や必要とされるスキルについて解説いたしました。
ビジネスアーキテクトは先進的な大企業だけが必要な人材というわけではなく、DXを進めるべき企業、すなわち企業規模に関わらず日本の全ての企業において必要な人材です。
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製造業で10年ほど品質管理、品質保証を経験したのち、IT業界にキャリアチェンジ。
業務IT化や、IT人材育成についてなど、IT業界以外の方にもわかりやすい記事を書くことを心掛けています。